オピオイド投与患者において睡眠時呼吸障害が認められることがいわれています。この論文は慢性疼痛で長期間オピオイド投与されている患者での検討です。近年、がん治療の発達により長期間、がんのコントロールが得られることが多くなっています。よって、がん患者においてもオピオイドが長期間投与されることも考えられこの論文の結果が参考になるのかもしれません。

Sleep Disordered Breathing and Chronic Respiratory Failure in Patients with Chronic Pain on Long Term Opioid Therapy
J Clin Sleep Med. 
2014 Aug 15;10(8):847-52. 


(背景)
 オピオイドは悪性疾患や非悪性疾患での疼痛治療に広く使われている薬物である。世界中でこれらオピオイドの使用が有意に増加している。オーストラリアでの1992~2007の15年間、入手できるオピオイド調剤数は4薬剤11調剤から8薬剤70調剤へと増加した。
 近年は疼痛コントロールへの着目が増加していて、オピオイドによる十分な鎮痛を維持する重要性が言われている。米国では、毎年およそ6800万人が慢性疼痛を感じており、その25%が高齢者であると推測されている。痛みの有病率は年齢に正比例して増加しているようであり、英国では65歳以上の人の50%以上が疼痛もしくは苦痛を感じていると報告されている。長期間オピオイド治療を受けている患者は治療に耐性が形成され、結果としてしばしば高用量のオピオイドが処方されている。人での急性モルヒネ過量による死亡はいつも呼吸器イベントによる。過度の服用において、オピオイドは高炭酸ガスと低酸素に対する脳幹と末梢化学受容器の反応性に影響し呼吸を抑制し、日中の眠気とうとうと状態を引き起こすことが知られている。オピオイド製剤の広範な使用と呼吸抑制を来しうる事実にも関わらず、睡眠時呼吸への影響についての研究はなされていない。少数の患者グループで二相性陽圧換気による睡眠時呼吸障害(SDB)の改善が認められまたそのうちの、選ばれた患者ではオピオイド製剤の中止によってSDBのまったくの消滅が認められた。
 SDBは長期間、メサドンを長期間継続的に投与治療されている患者で発見された。Teichthalらは、このグループの患者が30%と有意に高い有病率で中枢性睡眠時無呼吸を認めることを報告した。しかしながら、慢性疼痛によりオピオイドを投与されている患者とメサドンを維持投与されている患者とは異なっている。慢性疼痛患者は肥満の有病率が高く、様々な併存症を合併(身体的そして精神的)しており、しばしば多様な薬を服用している。覚醒時や睡眠時の低酸素の一因となり、SDBを誘導する可能性があるオピオイドの呼吸抑制作用が知られているにも関わらず、オピオイド治療を受けている患者での起床時の動脈血ガス分析の系統的な研究は存在しない。最後に、SDBと高用量オピオイドには個々にまたは共に昼間の覚醒状態に悪影響を及ぼす可能性があり、事故の危険性を増加させる。慢性疼痛に対して長期間オピオイドを投与されている患者での睡眠、呼吸、昼間の覚醒状態についてのデーター不足のため、筆者らはこの観察研究に取り組んだ。

(目的)
 慢性疼痛に対するオピオイド製剤の使用は増加している。この研究の主な目的は、慢性疼痛に対するオピオイドによる治療をうけている患者にどのくらいSDBがあり、どのようなタイプのSDBであるのかについて評価することである。昼間の動脈血ガス(ABG)分析と精神運動の覚醒状態におけるこれら治療の影響についても評価した。

(方法)
 長期(6か月以上で安定した投与量が4週以上)にオピオイド投与されている24名の患者を前向きに募った。患者は自宅でのPSG、精神運動覚醒状態テスト(psychomotor vigilance test : PVT)、昼間覚醒時ABGを受けた。
夜通しのPSGの所見をSDBの評価のために筆者らの睡眠クリニックに紹介された年齢、性別、BMIした患者と比較検討した。患者群のPVTの結果は健常者のコントロール群と比較した。

(結果)
 
オピオイド投与されている患者の46%に、無呼吸低呼吸指数(AHI)30以上で定義されている重度SDBを認めた。SDBの重症度はオピオイド治療をうけている慢性疼痛患者と睡眠クリニックの患者は似た傾向であった(オピオイド投与患者32.7±25.6 : クリニック患者28.9±24.6,P=0.6)。オピオイド投与患者は中枢性無呼吸(CAI)の頻度は高く、覚醒低下指数(lower arousal index : AI)は低かった(CAI:3.9±8.3 vs 0.3±0.5 P=0.004, AI:8.0±4.1 vs 20.1±13.8 P<0.001。ペインクリニックの患者は睡眠時と昼間覚醒時のガス交換が障害されていた。20名中9名(45%)が昼間に高炭酸ガスを認めたことは、驚くべき数の患者が慢性呼吸不全であったことを示している。。PVTは健常人のPVTと比較したときに障害されていた(オピオイド投与患者0.43±0.27 vs 健常人0.28
±0.03 P<0.001)。
img138(文献から引用)
モルヒネ換算量はSDBの重症度と相関していた。
img139(文献から引用)

(結論)
 オピオイドを長期間投与されている患者は頻繁に重度のSDBを認め、幾分かは中枢性であった。PVTは著名に障害されていた。評価した患者の半数は慢性呼吸不全を伴っていた。