がん医療では治癒や生存期間の延長を目標に治療が行われている。こういったいわゆる積極的抗がん治療を施行している場面で、患者が訴える症状、特に治療にともなった症状に対しての支持療法はさほど注意されていない傾向にあるようにも思います。また患者自身も治療中であり我慢するべきことと考える傾向にあるとも否定はできません。こういったことが、がんサバイバーへのケアにもつながっていくように思います。
 この論文では肺がんと大腸がんの患者での自覚する症状について検討されたものです。著者らは全体の93.5%の患者になんらかの症状の自覚があり、その中の半数以上に中等度から重度の症状を認めると述べています。また、がん以外の併存疾患を認めることが症状を自覚することに関与しているようで併存疾患の評価も重要なようです。

Symptom Prevalence in Lung and Colorectal Cancer Patients
J Pain Symptom Manage.  
2015 Feb;49(2):192-202.


(背景)
 生活の質(QOL)は研究や臨床診療の両者においてがん患者にとって重要な転帰であるとますます認識されていて、QOLは完全に患者が経験する症状に関連している。古典的な医学研修では、臨床症状は医学的な問題点を診断する主観的な情報を提供し、疾病を治療するのに重要である。疾病の治療はしばしば、治癒または生存期間の延長を目ざしていて、臨床症状の改善はその治療の貴重な副産物となりがちである。しかしながら、疾患を患者中心にアプローチすると、臨床症状は患者が疾患で経験したことであり、それゆえ、その患者の治療を全体としてみた場合より治療プランの中心になる。こういったことは特にがん患者で重要である。がん患者の臨床症状はしばしば疾病自体にそして治療の副作用や毒性によって引き起こされるからである。
 2002年の国立衛星研究所の疼痛、倦怠感、抑うつを含めたがんに伴う症状管理の研究報告で、単独でそして共存して起こるがんに伴う症状の発生、評価、治療についての研究の必要性が確認されている。いくらかの研究でがん患者の症状について検討しているが、そのほとんどは研究規模が小さく、地理的に限定されているものである。積極的治療は行わず治癒の望めないがん患者での症状について検討した系統的レビューでは、進行がん患者は多くの症状、特に疼痛や倦怠感を訴えていることについて報告している。最近のカナダの研究は行政のデータと繋がっていて、Edmonton Symptom assessment System(ESAS)データに集まることが慣例となっている。がん患者ばかりを集めた集団でよく見られる症状を最初に評価したもののひとつであると評されている。この研究は、治療目的もしくはサーバイバーへのケアのために腫瘍専門クリニックに入院しているがん患者を対象にした不均一な一群における臨床症状の有病率を評価している点で我々のデータとはかなりのギャップがあるが、疾患のステージ、治療のどの段階での評価であるか?がん治療を続けて行くうえで生じる症状の重荷に影響を及ぼすような他の要因についてのデータは含まれなかった。同様に2013に報告されたCleelandらによる研究も救急外来受診した際に示した臨床症状についてのM.D.Anderson症状目録を用いた評価であり、患者さんの疾病経過の中のどのポイントであるかには言及していない。

 多様で国家として代表するCancer Care Outcomes Research and Surveillance(CanCORS)studyからのデーターを用いて、著者らは肺がんまたは大腸がんと診断されて約4~6ヶ月経過した患者での疼痛、倦怠感、嘔気・悪心、咳、呼吸苦そして下痢を含めた自己申告された症状の有病率と重症度について評価した。これらのデーターを用いて、著者らは疾病の進行度や受けている治療のタイプを含めた患者の特性を調整した有病率データーを発表している。

(目的)
 新規にがんと診断された患者の大規模で代表とするコホートでの症状の有病率と重症度を説明するため。

(方法)
 
多様な国家として代表するCancer Care Outcomes Research and Surveillance(CanCORS)studyからのデーターから新規に肺がんまたは大腸がんと診断された5422名の患者から症状(疼痛、倦怠感、抑うつ、嘔気・嘔吐、咳、呼吸困難、下痢)についての調査データーを収集した。著者らは診断後薬4~6ヶ月経過した時期の症状の有病率と中等度・重度について記述した。著者らは患者と症状に関連した臨床的特徴と計算された症状を認める患者の割合について確認するためにロジスティック回帰を用いた。

(結果)
 Can-CORSコホート全体の51%の5422名が症状調査を完了した。
img140(文献から引用)
全体として5067名(93,5%)が調査前4週で少なくとも一つの症状を報告しており、その51%は少なくとも一つの中等度・重度の症状を報告していた。肺がんの患者は大腸がんの患者より多くの症状を報告した(肺がんでは初期の嘔気32.8%から進行期の咳84.1%、大腸がんでは初期の嘔気32.4%から進行期の抑うつ79%)。
img141(文献から引用)
img142(文献から)
治療を施行または併存症のある患者で症状の報告が多い傾向であった。例えば、調整後の調査前の6週間に化学療法を受けた患者は少なくとも一つの症状での検討(97.4% vs 90.4% P<0.001)で、そして少なくとも一つの中等度・重度の症状での検討(56.8% vs 46.2% P<0.001)においてより多い傾向であった。調整後、早期病期と進行病期での検討では少なくとも一つの症状では違いは認められなかった(93.6% vs 93.4% P=0.835)。少なくとも一つの中等度・重度の症状での検討ではわずかな有意差があった(53.3% vs 49.6% P=0.009)。
img143(文献から引用)
img144(文献から引用)

(結論)
 最近診断された肺がんと大腸がん患者は進行病期にかかわらずがんに関連した症状を自覚し半数以上は少なくとも一つの中等度・重度の症状を自覚していた。