がんに限らず、終末期医療においてよく話題となる”輸液”。どのくらいの量をいつまで行うのか?難しい問題ですよね。日本緩和医療学会から輸液に関するガイドラインが出版されていますが、ガイドライン通りにいかないのも実臨床では多々あるように思います。患者家族にとって、せめて点滴だけでもとの思いは常にあると思われます。このような状況にある時には、適切、丁寧な説明が不可欠だと思われます。この論文の結果、患者家族への説明に参考になるように思います(結論、あっさりしすぎではあるが・・)。

Parenteral Hydration in Patients With Advanced Cancer : A Multicenter, Double-Blind, Placebo-Controlled Randomized Trial
J Clin Oncol. 
2013 Jan 1;31(1):111-8. 


(背景)
 米国において議論の的になっている事の1つに、ホスピスケアを受けている進行がん患者が十分な経口摂取が出来なくなった時に経静脈輸液を受けるかどうかの問題がある。がん患者のほとんどは、重度の食欲不振、嘔気、嚥下障害、そして、またはせん妄の結果として亡くなる前に経口摂取量は減少します。脱水は順次、倦怠感、ミオクローヌス、せん妄を引き起こすまたはさらに悪化させることがある。その上、脱水の結果、進行がん患者によく処方されているオピオイドの生理活性ある代謝産物の蓄積が生じ、ひいては過度の鎮静、不穏状態、全身性ミオクローヌスを招くことになる。 
 終末期における脱水症の確立した治療基準は存在しない。脱水を伴った進行がん患者は、急性期療養施設では大概経静脈輸液をうけているが、ホスピスでは決してなされない。このどちらのアプローチも支持しうる科学的根拠はほとんどない。この議題についての二重盲検無作為化抽出試験は、著者らが行ったのであるが、経静脈輸液はプラセボと比較し進行がん患者の脱水に伴う諸症状の幾らかを軽減させることが示唆された。付け加えて、いくつかの後ろ向き研究では鎮静、幻覚、ミオクローヌス、そして倦怠感といった神経精神病学的症状を減少させることができたと報告している。
 著者らはホスピスケアを受けている進行がん患者において、脱水に関連した症状、遅発性せん妄の発症そして、または重症度、QOLへの影響、生存期間を改善するかについて経静脈輸液がプラセボと比べて優れているかどうかを決定するためにこのRCTを行った。

(方法)
 著者らは6か所のホスピスから129名のがん患者を、1日4時間輸液群(1000ml皮下投与)またはプラセボ群(100ml皮下投与)に無作為に割り付けた。主要なアウトカムはベースラインと4日目での4つの脱水症状(倦怠感、ミオクローヌス、鎮静、幻覚)の合計(sum)の変化である(各症状をNRSで評価し最良0、最悪40)。第二のアウトカムは4日目と7日目の症状変化を検討した。この検討には、Edmonton Symptom Assessment Scale(ESAS) , Memorial Delirium Assessment Scale(MDAS) , Nursing Delirium Screening Scale(NuDESC) , United Myoclonus Rating Scale(UMRS) , Functional Assessment of Chronic Illness Therapy-Fatigue(FACIT-F) , Dehydration Assessment Scale , creatinine , 尿酸 , 全生存期間が含まれている。

(結果)
  9名が主要エンドポイントに至る前に死亡した。
img150(文献から引用)
試験開始時の調査対象群の特性は似たようなものであった。88%の患者(113名)はECOGのPSが3~4であった。
 4日目において、輸液群とプラセボ群の両方に、試験開始時と比べて有意な改善が見られた。さらに、輸液群では幻覚(P=0.002)とミオクローヌス(
P=0.01)、プラセボ群では疼痛(P=0.02)、抑うつ(P=0,04)、不安(P=0.002)、ミオクローヌス(P=0.03)で有意な改善が見られた。しかし、グループ間の4つの脱水症状の合計または個々のどの症状においても有意差は認められなかった。
 7日目において、それぞれのグループで4つの脱水症状の合計は試験開始時と比べて有意差は認められなかった。両者共に嘔気、抑うつ、ミオクローヌスが有意に改善を認めた。
しかし、グループ間の4つの脱水症状の合計または個々の症状において有意差は認められなかった。
 MADSとRASSスコアは両群ともに4日目、7日目において有意に悪化を認めた。プラセボ群と比較して、輸液群で悪化傾向は見られなかった。4日目で、プラセボ群は輸液群と比較して夜間NuDESCが試験開始時より有意な悪化が見られたP=0.028)
 著者らは7日目の輸液群で、Cancer therapy-General
P=0.021)とFACIT-FP=0.008)スコアの有意な改善が認められ、プラセボ群では改善傾向が認められた(それぞれP=0.07 , P=0.086)。しかしながら、輸液群とプラセボ群間での検討では両者とも有意差は認められなかった(P>0.05)。
img151(文献から引用)
 中間生存期間は17日であった。中間生存期間は両群間で有意差は認めなかった。両群間で全生存期間において違いは認めなかった(21日 vs 15日 P=0.83)。
img152(文献から引用)

(結論)
 1日1Lの輸液はプラセボと比較して症状、QOL、生存期間を改善しなかった。