気管支漏、気管支肺胞上皮がんでみられる症状で症状緩和が困難である症状の1つです。気管支漏の薬物療法にはどういったものがあるのでしょうか。症状緩和を目的に抗がん化学療法を考慮することも大切に思います。
 この論文はLetterからのもので気管支肺胞上皮がんでの気管支漏にエルロチニブ(タルセバ)を投与することで数日で分泌量が減少し一時は気管内挿管していた呼吸状態が改善し数日で抜管できた症例報告です。人工呼吸管理していたかのコメントはありませんが、抗がん剤投与により呼吸状態が改善し苦痛から緩和されたのは事実であり、適応があれば抗がん化学療法を積極的に選択できる知識は必要と考えられます。この報告の最後に述べられていますが、分子標的治療薬であるチロシンキナーゼ阻害薬
(TKI)を開始したときの問題としてbeyond PDがあります。投薬中止することによる加速度的な病状悪化が認められることがあり、中止することも慎重に判断しないといけないようです。TKIをいつまで継続するべきなのか、beyond PDについての新しい情報、検索しないといけませんね。

Erlotinib or Gefitinib as First Choice Therapy for Bronchorrhea in Bronchioalveolar Carcinoma
J Pain Symptom Manage.  
2014 Jun;47(6):e7-9.


 編集者へ
 気管支漏はまれな合併症である。気管支漏のほとんどの症例は肺がんに合併する、たいていが原発性肺がんであるが、肺転移の結果としてもまた認めることがある。気管支肺胞上皮がん患者の5~20%に気管支漏が認められる。気管支肺胞上皮がんの気管支漏は、TKIであるゲフィチニブやエルロチニブにより改善しうることが報告されてきた。 著者らは気管支肺胞上皮がんで重篤な気管支漏を合併した患者を提示する。その患者は肺が気管支分泌物で充満することによる二次性呼吸不全のために集中治療室に入院となった。気管支漏はエルロチニブにより解決した。この経験と以前の報告から、重篤な気管支漏を合併した気管支肺胞上皮がん患者はたとえ腫瘍が上皮増殖因子受容体(EGFR)の遺伝子変異を持つかどうかの情報が無いとしてもゲフィチニブまたはエルロチニブによる治療を始めるべきだと提案している。

(症例)
 患者は65歳男性、主訴は2か月持続する乾性咳嗽と患者が”肺の雑音”と表現した症状である。彼は乾性咳嗽の増加とともに呼吸困難、急性呼吸不全のために入院した。胸部レントゲンにおいて、左肺底部に濃度上昇が認められた。胸部CTにおいて、左肺S6領域に4.7cmの陰影と肺炎像が認められた。気管支鏡検査で、S9入口部に粗雑な粘膜を認めた。気管支生検を施行し、非粘液性気管支肺胞上皮がんと診断した。それから数日後、彼の呼吸機能は悪化した。彼には発熱や喀痰は認められなかった。抗菌薬投与も効果は認めなかった。胸部レントゲン上、両肺の透過性が低下し高密度(higher basal density)となっていた。
gr1(文献から引用)
持続陽圧換気を施行も改善は見られず、ついに気管内挿管を行った。気管内挿管をしてみると、1日に2900mlにも及ぶ重篤な気管支漏が明らかとなった。分泌物は低蛋白の水様であったが悪性細胞、腺がん細胞が陽性であった。患者は分泌物のドレナージが促進されるように腹臥位を保持された。著者らはEGFRに関する情報は知らなかったが、胃管よりエルロチニブの治療を開始した。48時間後、気管支分泌物は減少し抜管した。2,3週間後、EGFR遺伝子の変異(Exon19)が確認された。臨床病期の評価にて、骨転移を認めStageⅣであった。患者はエルロチニブを継続し8ヶ月以上部分寛解(partial response)を得た。再増悪後、著者らはゲフィチニブを2か月試したが効果はなかった。一旦
TKIを中止すると、患者は一時的に気管支分泌物が増加したが気管支漏の分泌量より少ないものであった。彼は現在抗がん化学療法中(シスプラチン、ゲムシタビン、ベバシツマブ)で不変(stable disease)を維持している。

(コメント)
 気管支漏は非小細胞肺がんの1%以下に認められる。気管支漏は日に100ml以上の水様喀痰が産生されることで定義されている。1日の気管支分泌量は気管支肺胞上皮がん患者において9000mlにまで達しうる。コルチコステロイド、抗菌薬、インドメタシンの吸入、またはオクトレオチドによる改善例は限定的ではあるが報告されているが、参考となる治療法は存在しない。2003年から現在までで著者らはPubMedで
TKIにより気管支肺胞上皮がんの気管支漏が改善した10例の報告がなされていた。EGFRの遺伝子変異の存在は、TKIにより70%以上の客観的な反応性が期待できることに関連しているが、治療効果が客観的な反応性の基準に達していなくても腫瘍の90%はある程度の縮小が認められることが報告されている。気管支肺胞上皮がんの12~70%においてEGFR遺伝子異常が認められる。このパーセンテージは非粘液性腫瘍でより高い。腫瘍の反応性はたいてい腫瘍関連合併症、この症例では気管支漏の軽減に関連している。しかしながら、TKIによる気管支漏の改善はEGFR遺伝子異常のないそして、腫瘍反応性のない気管支肺胞上皮がんにおいて報告されている。このことはおそらくゲフィチニブは粘液産生細胞でのMUC5AC合成阻害を介して粘液産生を減少させることによると思われる。この証明はたとえEGFR遺伝子異常の情報が無くても、新たに気管支肺胞上皮がんと診断された症例での気管支漏の大部分はゲフィチニブまたはエルロチニブにより改善がみられるだろうこと、そしてこの改善は数日で出現するだろうことを示唆している。これらのデーターから著者らは、気管支肺胞上皮がんに合併した気管支漏では、まずゲフィチニブまたはエルロチニブによる初期治療を行う、少なくとも1週間、EGFR遺伝子異常がある場合だけでなく遺伝子異常がわからない時もそして野生型であっても。最初の1週間でTKIで改善しない、腫瘍が治療抵抗性またはゲフィチニブまたはエルロチニブによる治療後再発例での気管支漏において、効果は限定的であるがその他の治療は、所謂”第二選択薬”としてとっておくべきである。気管支漏はこれら患者において、いつも腫瘍の進行に平行するわけではないが、これら薬剤の中止後に起こりうる病状の加速度的進行(flare reaction)を阻害するためにも短期間でもTKIを慎重に継続することが望ましい。