放射線治療を勧める臨床場面、多くあると思われますが、本人そして、または家族が放射線治療を希望されない場合、稀ではありますが経験します。とくに高齢者の方で多い印象でした。希望されない理由について以前尋ねたことがあって、その理由として”放射線”のイメージがよくないと答えられた方がおられました。治療をうけることによって放射線障害がでないかと心配されるようです。確かに、放射線性障害は急性、晩期合併症としてあり、ごく稀に生命を脅かす重篤な合併症が発症することもあります。起こりうる合併症についての丁寧な説明により、施行するメリットについて理解してもらえるかもしれません。
 この論文は緩和的放射線治療を受けられた患者と拒否された患者の背景因子について検討されており、両者の生存期間の違いについても検討されています。

The Refusal of Palliative radiation in Metastatic Non-Small Cell Lung Cancer and Its Prognostic Implication
J Pain Symptom Manage.  
2015 in press


(背景)
 肺がんは依然として世界でがん関連死の主要な原因である。それらの症例の大部分は非小細胞肺がん(NSCLC)である。
NSCLCの患者の約55%は診断時に転移を認めている。よく認められる転移巣は脳、骨、肝臓、域外リンパ節である。このように多様な部位に生じるため、転移性NSCLCはとても多彩な疾患であり、推奨される治療法は組織型、腫瘍の重症度、全身状態(PS)、合併症、そして患者それぞれの治療の目標によって影響を受ける。
 全身抗がん化学療法は 転移を有する症例において、依然として頼みの綱である。多くの無作為化試験において、選ばれた無治療の患者に対して抗がん化学療法を追加することにより全生存期間(OS)に好影響があることが報告されている。放射線療法(RT)といった局所治療法は中枢神経系や肺などの生命危機にかかわる器官の活動的あるいは切迫した症状を緩和するために施行される。緩和的RTのよく知られた恩恵としては、疼痛や呼吸器症状、神経学的症状の緩和の結果、生活の質(QOL)が改善することも含まれる。緩和的RTはQOLを改善し重篤な続発症を予防することによって、
OSに強い影響を与えるかどうかについては明らかになっていない。
 前もって緩和的RTを行うことが勧められるが、患者が治療を拒否することがしばしばある。緩和的RTの知られた恩恵についての説明を受けたとしても治療に対して潜在的に障壁がある場合、緩和的RTを拒否することによって生存期間にどのように影響するかは、重要な論点であり研究する価値がある。このことによって将来の意思決定を援助することができ、予後の認識に対して大きな助けとなる。ここで、著者らは新たに転移性NSCLCと診断された患者において、放射線照射拒否のパターンを評価するためにSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)のデーターベースを使った。

(方法)
 1988~2010年の間で診断されたⅣ期NSCLCの患者がSEERデーターベースから同定された。放射線照射の拒否の予測因子と緩和ケア領域での放射線照射の有無が
生存期間に及ぼす影響を同定するために単変量解析と多変量解析を行った。

(結果)
 緩和的RTは119,751名の患者(42%)に行われたが、3795名の患者(3.1%)が拒否された。合計162,096名のⅣ期NSCLC患者が外部照射を行うことを推奨されなかった。患者の人口統計の単変量解析では、年齢、性別、人種、そして婚姻状況に基づく拒否において有意な違いが認められた。高齢(P<0.001)、女性(
P<0.001)、非黒色・非白色(P<0.001)、未婚(P<0.001
)の患者は緩和的RTを拒否する傾向にあった。
img173(文献から引用)
多変量解析において、これら人口統計は拒否の有意な予測因子であった。このモデルでは、高齢の患者は放射線照射を拒否する傾向にあった。75歳の患者は55歳の患者と比較すると2.5倍放射線照射を拒否する傾向であった(オッズレシオ:OR 2.521)。女性は男性より放射線照射を拒否する傾向であった(OR 1.111)。白人と黒人はだいたい同様であったが、その他の人種は放射線照射を拒否する傾向であった(OR 1.240)。未婚者は既婚者よりも放射線照射を拒否する傾向であった(1.763)。
img174(文献から引用)
 カプランマイヤー生存曲線は放射線照射を受けた患者と拒否した患者のOSを比較し描かれたものである。緩和的放射線照射を拒否した各個人は、治療を受けた各個人と比べて中間OS(3ヶ月vs 5ヶ月、P<0.001)が悪かった。放射線照射が推奨されず、行われなかった患者の中間OSは2か月であった。
img175(文献から引用)
2000年と2010年の間のデーター分析では中間生存期間は5か月のままであった。拒否の予測因子をふくめた結果は、現代のこのコホートとまったく同じであった。拒否の頻度も安定していて2.5%~4.5%の範囲内であり、臨床病期での化学療法や放射線照射の発達にも関わらず大きな変化は見られなかった。
img176(文献から引用)

(結論)
 推奨されている緩和的放射線照射を拒否した転移性NSCLCの患者の生存期間は悪かった。放射線照射の拒否または治療に対する推奨は早く緩和ケアサービスの統合するきっかけとして役に立ちうる、そして予後の認識に大いに貢献する。この生存期間の違いと拒否の背景にある要素のさらなる検討が保証されている。