便秘は有症状率が高いにも関わらず評価や診断が不十分であると報告されている。便秘は主観的症状であり患者の訴えが重要だと思われます。では、患者自身による便秘の評価と便秘評価ツールであるROME基準との関連についての予備的報告の論文です。

Self-Reported Constipation in Patients with Advanced Cancer: A Preliminary Report.
J Pain Symptom Manage.  
2013 Jan;45(1):23-32.


(背景)
  便秘は腸管蠕動の減少を伴った排便の減少又は排便困難な状態と定義されることができ、便は異常に硬い場合もあれば硬くない場合もある。そして便秘は排便の困難さと不快さを増加させる。便秘は進行がん患者においてしばしば起こるつらい症状であり、緩和ケアを受けている患者の40%に、そしてオピオイドによる治療を受けている患者の90%以上に認める症状である。がんの患者は多くの原因により慢性的な便秘のエピソードを経験する。その原因として、薬物治療(例えば、オピオイド、制吐薬、そして抗うつ薬)、腫瘍による圧迫や神経叢への浸潤、脱水、経口摂取低下、動かないこと、代謝異常(高カルシウム血症、低カリウム血症、または甲状腺機能低下)、そしてまたは自律神経障害がある。便秘の治療を行わないと、腹痛、膨満感、嘔気そしてまたは嘔吐、食欲不振、尿閉、精神状態の変化そしてせん妄といったつらい症状が出現することがある。重度の便秘になると、重度の便秘から腸閉塞または腸管穿孔といった生命にかかわる合併症が引き起こされることがある。
 便秘は十分に評価されておらず、また過小診断されている。自己報告によって便秘を評価することが提案され、多くの著者が用ている。予備的研究において、患者により報告された転帰と便秘の放射線学的診断の間に限定的ではあるが関連が観察されている。Rome基準は広く受け入れられていて、がんでない患者において便秘評価の最も確かなツールであると考えられている。便秘が高頻度に起こり、便秘からかなりの不快感が引き起こされるにも関わらず、進行がん患者における便秘をスクリーニングする診療ガイドラインは確立していない。

(目的)
 第1の目的は進行がんの外来通院患者において、患者により報告された便秘(PRC)の正確さと改訂RomeⅢ(ROME)基準の正確さを比較し、PRCと改訂ROME基準を用いた便秘の客観的評価間の一致度を決定することである。第2の目的は、便秘、症状の負担(Edmonton Symptom Assessment System: ESASによる評価)、そして生活の質(QOL)との間の関連について決定し、PRCと緩和ケア医による便秘の評価との一致率について調査することである。
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img216(文献から引用)

(方法)
 支持療法クリニックに通院している進行がん患者をスクリーニングした。便秘は改訂ROME基準を用いて評価を行った。患者報告と医師の評価はともに、はい・いいえの評価と0~10段階評価を行った。

(結果)
 合計148名の患者が適格例で研究について交渉し、100名の患者が登録された。
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患者の人口統計は表1に要約されている。
100名中46名(46%)は少なくとも2年前にがんと診断されており、93名中41名(44%)はECOGのパフォーマンスステイタス(PS)の0か1であった。
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 100名中50名がROME基準を満たした。100名中15名は過敏性腸症候群(IBS)の基準を満たしたため、この研究から除外した。85名中38名(45%)が 便秘の基準を満たした。100名中63名(63%)は緩下薬を処方されていて、そのうちの24名は同時に2種かそれ以上の
緩下薬を処方されていた。最もよく処方された緩下薬はセンナとポリエチレングリコールであった。
 表3はPRCの0~10の異なるカットオフスコアの敏感度と特異度を示している。カットオフスコアが3/10以上であると敏感度(0.84)、特異度(0.62)、陽性的中率(0.69)、陰性的中率(0.79)と最良の組み合わせであった。
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 表2はROME基準に従った便秘のはい・いいえの転帰と患者、医師によって報告された評価の一致度について要約したものである。全体的なコホートと過敏性腸症候群を除外したコホートの両者において、中等度の一致度(>0.40)はPRCが3/10以上でのみ認められたが、PRCはい・いいえ、医師が評価した便秘(MDAC)の3/10以上またはMDACはい・いいえでは認められなかった。1つの例外は中等度の一致度はIBSを除外したコホートでPRCはい・いいえで認められたことである。
 著者らはROMEの重症度とPRC0~10との間に有意な相関関係(r=0.61 P<0.001)を見出した。
ROMEの重症度とMDAC 0~10との相関関係は非常に低かった(r=0.34 P0.001)。ROMEとオピオイド服用に有意な相関関係が認められた(r=0.25 P0.015)。PRCとROMEの重症度には有意な関連が認められたが、PRC3以上を用いると38%の偽陽性、16%の偽陰性との結果を来し、PRCはい・いいえは33%の偽陽性、33%の偽陰性との結果であった。
 ROMEの重症度と患者が報告した転帰との相互関係はROMEの重症度と医師の評価との相互関係よりも強いものであった。これらの結果により、患者の便秘の報告は医師の見解よりも信頼できることを示唆している。
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 ESASスコアとROME基準による便秘の存在との間に有意な関連は認められなかった。表4は5つの便秘に関連した症状のうち3つは便秘の患者において有意に重症度が高く、残りの症状(腹部膨満、早期飽満)は重症度において有意な傾向は認められなかったことを示している。
 European Organization for Research and Treatment of Quality of Life Questionnaire(EORTC QLQ-C30)のサブスケール得点は認知機能を除いて便秘を認めない患者と便秘を認める患者の間に差は認められなかった。中間値は非便秘患者で83(四分位範囲67-100)、便秘患者で67(
四分位範囲 50-83)であった。財政的困難の中間値は非便秘患者で33(四分位範囲 0-67)、便秘患者で67(四分位範囲 33-75)であった(P=0.04)。予想通り、便秘の質問に対する得点において有意差が認められた。その中間値は非便秘患者で0(0-33)、便秘患者で33(33-67)であった(P<0.001)。
img213(文献から引用)
 便秘群における倦怠感
(EORTC QLQ-C30)が非便秘群より高いレベルにあることを示唆する有意な傾向は認めなかった。中間値は便秘患者の56(四分位範囲 33-78)と比較し非便秘患者は44(四分位範囲 22-67)であった(P=0.09)。
 表5はオピオイドと緩下薬の調節用量の平均は非便秘患者と比較し便秘患者において有意に高用量であることを示している。
img214(文献から引用)
 
(結論)
 著者らは便秘は高頻度に認めることを見出した。改訂ROME基準との限定的な一致度は患者のはい・いいえの自己報告は臨床診療にとって有用ではないことを示唆している。患者の0-10段階評価は、進行がん患者での便秘のスクリーニングに最も有用なツールだと思われる。進行がん患者における便秘を評価する最良の方法を証明するために
さらなる研究が必要である。