高用量ブプレノルフィン貼付薬のがん疼痛治療の成功例についての症例報告です。わが国で処方できるブプレノルフィン貼付薬は7日持続するタイプで5~20mg製剤がありますががん疼痛には適応がなく非がん性疼痛のみに適応があります。ブプレノルフィン貼付薬ががん疼痛に使用されているか知ろうと思い読んでみました。この論文にでてくる製剤はTranstecという名で日本のノルスパンテープよりはるかに高用量のようです。我が国でもがん疼痛にも適応が拡大されれば治療薬の選択肢が増えるのですが。

The Use of High Dosages of Transdermal Buprenorphine for Pain Management in Palliative Cancer Patients: A case Study. 
Case Rep Oncol.  
2013 Mar 29;6(1):169-73. 


(背景)
 疼痛は
がん特に進行病期にあるがんによく認め、臨床的に関連する症状である。がん疼痛対処についてのWHOの3ステップアプローチによれば、適正な薬剤を適切な容量で適切な時間に投与すれば80~90%の有効性である。しかしながら、緩和ケアを受けている患者の疼痛コントロールはしばしば不適切であることは周知されている。
 強オピオイドの使用は緩和ケアを受けているがん患者の疼痛管理のために推奨されている。μオピオイド受容体作動薬であり、κオピオイド受容体阻害薬でもあるブプレノルフィンは、両受容体に強い親和性で結合する。ブプレノルフィンの鎮痛効果に天井効果がある可能性についての以前の懸念は疑問視されている。実際、ブプレノルフィンは呼吸抑制に対して天井効果を誇示するために、役に立つ安全な性質である。経皮吸収型ブプレノルフィンパッチは3種類のパッチ強度が利用できる。すなわち35、52.5、そして70μg/時で、0.8、1.2、1.6mg/日に相当する。薬物は最大96時間パッチから遊離される。
 
経皮吸収型ブプレノルフィンの効能と耐容性は慢性がん疼痛においてよく確立されている。これら試験の結果は臨床診療や後方視的薬剤疫学試験における大規模な市販後調査で確認されている。経皮吸収型ブプレノルフィンは最近、最大96時間までの使用で35、52.5、そして70μg/時のパッチ強度で中等度から重度のがん疼痛や非オピオイド鎮痛薬に反応しない重度の疼痛に承認された。現行の症例研究はがん関連疼痛の管理に推奨されている用量を超えた経皮吸収型ブプレノルフィン140μg/時以上の用量を投与されている緩和ケアをうけているがん患者2名について提示する。

(症例研究)
・症例1
 77歳女性(身長161cm、体重31kg、BMI 14.66)が2008年11月にルーヴェン大学病院腫瘍科・緩和ケア科の部門に入院した。後腹膜リンパ節転移を伴う膀胱がんの患者であった。
 疼痛管理は始めはパラセタモール1gを1日4回、
経皮吸収型フェンタニル150μg/時により治療されていた。さらに患者は緩下剤も投与されていた。疼痛軽減はNRSスコア8と満足できるものではなかった。彼女はその後、経皮吸収型ブプレノルフィン140μg/時に変更された(day1)。経皮吸収型ブプレノルフィンに変更した翌日、NRSスコアは8のままで経皮吸収型ブプレノルフィンは210μg/時まで増量された(day2)。NRSスコアは2まで減少した。
 患者は必要に応じて突出痛にモルヒネ30mgの皮下注射による治療を開始した。この用量は徐々に120mgまで増量された。18日の期間にわたって、レスキューとして用いるモルヒネの1日の平均量が100mg以下となった。患者はそこで、自動ポンプを用いたモルヒネ260mg/日投与に変更された。患者は9日後に亡くなった。
・症例2
 72歳男性(
身長173cm、体重73kg、BMI 24.39)が2008年11月にルーヴェン大学病院腫瘍科・緩和ケア科の部門に入院した。肝臓と骨に転移を認める神経内分泌がんの患者であった。彼は初めNRSスコアは2と報告したが、臨床的観察で相当な疼痛関連不快感を認めていた。入院中、患者は看護師によって継続的に観察された、そして彼は治療期間中高いNRSスコアを報告しなかったが、いくつかの時間帯で彼の行動から程度の強い疼痛関連不快感を認めることが確認された。このことが鎮痛薬の用量を増加させることを決定する基礎となった。
 疼痛管理は経皮吸収型ブプレノルフィン35μg/時から開始された。21日間疼痛が軽減し満足するものであった(day1~21)。ブプレノルフィンによる治療を開始して患者は悪心と便秘を報告した。彼は治療期間全体で下剤による治療を受けた。
 3週間後、疼痛が増強していることを訴え、経皮吸収型ブプレノルフィンの用量は70μg/時まで増量された(day22~26)。4日後、経皮吸収型ブプレノルフィンの用量は105μg/時まで増量され(day27~34)、2週後には140μg/時まで増量されたday35~55。この時には、患者は20日間にわたって徐々に頻度が増加する突出痛のためにブプレノルフィンの舌下錠による治療を受けていた。この期間の後、経皮吸収型ブプレノルフィンの用量は175μg/時まで増量されたday56~123。モルヒネの皮下注射が突出痛のコントロールに用いられた。68日の期間で、患者は3日に1回の頻度で20mgのレスキューが必要であった。終末期では、ブプレノルフィンに追加してモルヒネ80mg/24hの持続皮下注入を開始された。

(考察)
 進行がんにおいて、緩和的抗がん治療を受けているすべての患者の約半数は疼痛を経験する。しかしながら多くの患者はがん関連疼痛に対して十分な治療を受けていないことが多い。
 この症例研究では、緩和ケアを受けている2名のがん患者に関連したデーターについて提示していて、疼痛管理のために現在推奨されている最大容量の経皮吸収型ブプレノルフィンよりも高用量をうまく受けることができた2例である。これら2名の患者に使われた経皮吸収型ブプレノルフィンの最高用量はそれぞれ210μg/時、175μg/時であった。十分な疼痛コントロールが、しかも最小限の副作用でもってこれら
2名、つまり経皮吸収型ブプレノルフィンを210μg/時まで増加投与された患者において得られたという知見は140μg/時以上の経皮吸収型ブプレノルフィンのタイトレーションは臨床的に有効で十分大目に見ることが出来るという仮説を支持している
 経皮吸収型ブプレノルフィンを210μg/時まで増量して疼痛をコントロールしたという知見はまた経皮吸収型ブプレノルフィンの鎮痛効果に関連する専門調査会の見解に則して、臨床現場におけるブプレノルフィンの天井効果の仮設に挑んでいる。確かに、天井効果はいくつかの前臨床のブプレノルフィンの動物モデルで報告されている事実にもかかわらず、コンセンサス・グループはブプレノルフィンは鎮痛作用には完全なμオピオイド受容体作動薬としてふるまい、天井効果は臨床的には呼吸抑制が唯一であることに同意している。しかしながら、現行の逸話的な根拠は非介入時の2名の患者から得られた経験のみ基づいているのと同様、より大きなサンプルサイズの介入の臨床試験での確証から利益を得ている。さらに現行の症例研究の潜在的な制限は、疼痛評価客観的方法がなされておらず、治療の成功は医療関係者や患者によって主観的に評価されているという事実である。
 がん疼痛治療のための鎮痛薬を選択するためのコンセンサス基準は最近専門調査会によってレビューされている。そして、効能は最も重要な因子であるが、他の側面には患者に適合させた個別化治療、文化的影響、疼痛強度、併存症、タイトレーションの容易性と用量の自由度、そして前治療の知識が含まれている。がん疼痛コントロールの一般的な失敗は神経障害性要素のコントロールが不良であることに関連している可能性がある。経皮吸収型ブプレノルフィンは慢性神経障害性、侵害受容性、そしてがん関連疼痛のある患者に有利な鎮痛効果が証明されている。
 要約すると、著者らは緩和的抗がん治療を受けている2名の患者について記述している。その患者は経皮吸収型ブプレノルフィンを210μg/時まで増量して鎮痛治療が成功した。一方で、これら臨床知見はたった2名の患者に基づいているゆえに、誇張するべきでなく、これらの調査結果は140μg/時以上の経皮吸収型ブプレノルフィンは効果的な疼痛軽減と高い耐容性があるという最初の証拠を提供する。
これら初めの知見を確証する試験が保証されている。