スピリチュアルケアとしての回想法の効果についての報告です。

Efficacy of Short-Term Life-Review Interviews on the Spiritual Well-Being of Terminally Ill Cancer Patients.
J Pain Symptom Manage.  
2010 Jun;39(6):993-1002.

(背景)
 
精神的・実存的苦痛はQOL、善き死(good death)、抑うつ、早められた死の望み、絶望、そして希死念慮に関連しているため、終末期がん患者における精神的・実存的苦痛の緩和は非常に重要である。終末期がん患者の17%は早められた死に対する強い願望を持っていて、また終末期がん患者の16%は大うつ病発症の基準を満たすことが報告されている。早められた死の望みは著明に臨床的抑うつと絶望に関連している。 精神的・実存的苦痛を緩和するために、尊厳、価値、士気喪失といった概念に基づいて多くの研究において有効な戦略について調査されている。最近のカナダでの単一群の予備的試験では、尊厳療法(Dignity Therapy)は終末期がん患者の精神的・実存的苦痛の緩和にとって期待できるものであることを示唆しているが、尊厳療法の介入が有効であることを証明したデーターは存在しない。
 日本において、 多施設特別調査委員会は終末期がん患者の
精神的・実存的苦痛緩和のための臨床的戦略を開発するために設立され、このグループが初めて理論上モデルと善き死の調査に基づいた精神的・実存的苦痛のための概念的枠組みを提案した。著者らは精神的・実存的苦痛を、他の人との関係性の喪失、自律性の喪失、または将来性の喪失によって自己の存在と価値が死滅することによって引き起こされる痛みと定義した。このモデルでは、精神的・実存的苦痛には中心的な概念として価値の認識(sense of meaning)があり、7つのサブドメインを含む(relationship: 関係性、control: 制御、continuity of self: 自己の継続、burden to others: 他の人への重荷、generativity: 次世代育成能力、death anxiety: 死の不安、そしてhope: 希望)。著者らは初めに実行可能性の調査と終末期がん患者での4週間の正式な回想法の有効性を通して、精神的・実存的苦痛緩和のための回想法の有効性について試験を行った。この試験はスピリチュアルな満足度(spiritual well-being)において疑いのない効果を示したが、登録患者の30%は急速な全身状態悪化のために試験を完了しなかった。著者らはその後、新しい精神療法で1週間以上を2つのセッションで構成される短期回想法を開発し、そして前後の試験デザインを用いてその実行可能性と有効性について調査した。結果は期待できるものであった。完遂率は83%で、Functional Assessment of Chronic Illness Therapy-spiritual(FACIT-Sp)スケールで評価した時に価値の感覚において著明な増加を認めた。
 現在の無作為化対象試験において、著者らのゴールは終末期がん患者における価値の認識を高めるための短期回想法の有効性について確認することである。第2の目的は、不安と抑うつ、そして善き死の要素での短期回想法の効果について評価することである。

(目的)
 この試験の主要目的は、
スピリチュアルな満足度を高めるための1週間の短期回想法の有効性について試験することである。第2の目的は、不安、抑うつ、苦痛、そして善き死の要素におけるこの治療法の有効性について評価することである。

(方法)
 患者は68名の終末期がん患者で、無作為に
短期回想法インタビュー群とコントロール群に割り振られた。患者は治療前後で質問票を完成させた。その質問票には、FACIT-Spスケールより生活領域の価値、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)、精神的苦痛の数値スケール(numeric scale)、そして善き死目録からの項目(希望、重荷、生活完遂、覚悟)が含まれている。
 初めのセッションでの患者への質問
① あなたの人生で最も重要なことは何ですか、そしてなぜ重要なのですか?
② あなたの人生で最も鮮明な、または印象深い記憶はなにですか?
③ あなたの人生において、あなたに最も影響を与えた出来事またはヒトは何ですか?
④ あなたの人生において最も重要な役割を演じているのは何ですか?
⑤ あなたの人生で最も誇らしい瞬間は何ですか?
⑥ あなたのことで、あなたの家族が知っておく必要があるものはありますか?
⑦ あなたが家族に伝えたいことはありますか?そして家族に覚えておいてほしいことはありますか?
⑧ あなたの人生において大事な人または若い世代のためにあなたはどんなアドバイス、または指導の言葉をかけますか?

(結果)
 スタディの実施要綱は図1に示されている。
img259(文献から引用)
コントロール群の5名、介入群の4名はスタディより脱落した。脱落原因は介入群において死亡(1名)、全身状態の悪化(1名)、病院から退院(1名)、そして患者の拒否(
1名)、コントロール群は死亡(3名)、全身状態の悪化(1名)、患者の拒否(1名)であった。したがって総計68名がセッションを完了し、奏効率は88%であった。両群間の背景に有意差は見られなかった(表1)。
img260(文献から引用)
・主要エンドポイント
 
FACIT-Spに関しては、主効果(main effect)は意義深く、介入群のスコアはコントロール群より著明に高かった。交互作用もまた意義深く、介入群のスコアは短期ライフレビューを行った後著明に増加したがコントロール群では著明に減少した(表2)。
img261(文献から引用)
FACIT-Sp平均スコアは介入群で26、コントロール群で14であった。したがって
FACIT-Spの効果値は1.57であった。
・副次的エンドポイント
 HADSにとって、主効果は
意義深く介入群のスコアはコントロール群より著明に低値であった。交互作用は意義深く、介入群のスコアは著明に減少したがコントロール群は変化がなかった。希望にとって主効果は意義深く、介入群のスコアはコントロール群より著明に高値であった。交互作用もまた意義深く、介入群のスコアは介入後著明に増加したが、コントロール群では著明に減少した。重荷にとって主効果は意義深いものではなかった。交互作用は意義深く、そして介入群のスコアは介入後著明に減少したが、コントロール群のスコアは変化がなかった。生活完遂にとって、主効果は意義深く介入群のスコアはコントロール群より著明に高値であった。交互作用はまた意義深く、そして介入群のスコアは介入後著明に増加したが、コントロール群のスコアは変化がなかった。覚悟にとって、両群間において主効果は認めなかった。交互作用はまた意義深く、そして介入群のスコアは増加したが、コントロール群のスコアは変化がなかった。苦痛にとって、両群間において主効果は認めなかった。しかしながら交互作用は意義深く、そして介入群のスコアは介入後著明に減少したが、コントロール群には著明な変化は認めなかった。
・身体的苦痛と身体症状
 短期ライフレビューには疼痛と身体症状スコアにおいて有意な影響は認められなかった。スコアの明確な変化は認められなかったが、疼痛の強さは2.9~4.2、症状の強さは3.7~5.1であり疼痛と症状のコントロールは良好であることが示唆された。
・相関分析
 著者らは価値の認識と他の変数の関連性を調査するために相関分析を行った(表3)。
img262(文献から引用)
FACIT-Spスコアは希望(r=0.36、P=0.02)、生活完遂(
r=0.66、P=0.001)、HADSスコア(r=-0.52、P=0.001)、苦痛(r=-0.60、P=0.001)、疼痛(r=-0.36、P=0.02)と中等度の相関が見られた。

(結論)
 著者らは、
短期回想法
は終末期がん患者のスピリチュアルな満足度の改善、心理社会的苦悩の緩和、善き死の啓発において有効であると結論する。